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日本道観の思想・宗教哲学

 

2011.10.24

「道」TAOの共生と、人類の未来への発展



2011年10月24日、中国湖南省の衡山で開催された「国際道教フォーラム」にて、早島妙聴道長が「TAOの共生と、人類の未来への発展」をテーマに語った論文の全文を掲載します。

今後加速される環境破壊による地球環境の悪化、そして世界中で起こる大きな自然災害の中、 宇宙から見た視点で、私達人間が天地自然に生かされていることを認識し、老子の教えである「道」を学びTAOに生きることを多くの人々に伝えることの重要性が語られています。


加速する環境破壊と天災


私たち日本人は今年の3月11日に東日本大震災に見舞われ、東北地方は村ごと津波に流され、1万5千人以上の方々が亡くなり、また今だ4400人以上が行方不明となっています。 そして地震による原子力発電所の事故により、日本道観総本部がある福島県を中心として、日本全国は放射性物質の人体への悪影響にたいして、敏感になり、不安を増長させています。 

そして、実は世界でも、これまでの記録を上書きするような、人間社会に大打撃を与える自然現象、天災が起こっています。 ここ数年来、地球温暖化現象は益々急速化し、日本の夏も温帯から熱帯へ変化し、大型台風、豪雨、強風、竜巻などなど、これまででは考えられない現象が多発し、同じように世界の天候は益々激しく荒れてきています。 

今回の大震災で日本では「想定外」という言葉がよく使われましたが、確かにここに来て、人間が予想はしていたが、まだ先であろうと安易にかまえていた、また、できれば起きて欲しくないと願っていた、地球環境の崩壊は現実のものとなり、速度をどんどん速めているように思えます。 

宇宙の中の人間という見方「道」


しかし、これも人間の立場に立った物の見方であり、46億年といわれる地球の歴史から見れば、特別なことでもなく、また初めてのことでもないのかもしれません。 ですが、今の現状を見ると、確実に人類の成してきた経済至上主義、利潤や便利を追求するためには、自然破壊も当然という傍若無人なやり方が、地球環境破壊を著しく早めてきたことは確実であります。

私たちは、ここで立ち止まって真剣に人類の行く先について考えなくてはならない時に来ているのです。

人類はこれまでに大きな試練を何度もくぐりぬけて現代まで生きぬいてきました。 東日本大震災を越えた日本も、今国民が皆で力をあわせ、また中国を始めとする世界からの暖かい援助に力を得て、この苦境を乗り切ろうと頑張っております

3年まえに中国四川省を襲った大震災も、中国国民の力によってすでに乗りこえられて、昨年9月に行われた道教文化祭にご招待いただきその新しい街の美しさに感動いたしましたが、四川省はすばらしい都市に生まれ変わりました。

同じように、日本の東北も年月がかかるでしょうが、日本全国の力をあわせ、そして世界の方々からの温かい支援に勇気づけられて、美しくより住みやすい街に生まれ変わることでしょう。 しかし、それはこれまで通りの街を取り戻す復旧ではなく、新たな天地自然に調和した街や社会をつくるという復興でなければならないのです。


宇宙の視点に立った哲学「老子」に学ぶ


大災害も長い地球の歴史から見たら小さな出来事
そして今、もう一つ私たち人間がこれらの大災害で学ばねばならない事は、人類が環境破壊を助長してきている現実に目を向けることと同時に、実は宇宙の歴史の中で人類誕生の歴史はほんの最近の出来事であるという事実を再確認し、人間はもっと謙虚に、そして積極的に宇宙、天地自然の中の一部としてその調和を保ち、自然に学び、宇宙のエネルギーの中で生かされているという事実を認識する必要があるのです。 つまり「天人合一」の考え方「道」TAOに立ち戻ることなのです。

この宇宙は137億年の歴史を持ち、地球は46億年の歴史を持つといわれていますが、人類の歴史は猿人が誕生したのが約500万年前頃、ホモサピエンスが15万年前だといわれますから、宇宙の歴史から見れば、ほんのわずか最近のことであり、人類が地球上で急激に数を増やし、様々な文化的活動をしはじめてからの年数はもっともっと短いということになります。

そう考えると、現在起こっている様々な変化や天災といわれる出来事も、長い地球の歴史から考えたら、ほんの小さな変化であるといえます。  

人間が自然を支配できるという間違い
人間は天地自然、言い換えれば「道」によってこの世界に命を与えられ、そして一生を過ごし、誰もが確実に長くても100年程度(道教の修行者で数百年の寿命だったといわれる仙人をのぞいて)の人生を終えて死ぬのです。 そして地球上に住む多くの動物植物も同じようにそれぞれの生命を全うしようとしています。

ところが人間はこれまで、特に西洋的な考え方では自然と共に生きるというより、自然を人間の思うように利用しようとしてきました。 地球の歴史の中でつい最近生まれたばかりの人間が地球を支配しようと考えたこと自体が間違っているのです。

そのようなことはできることでもなく、一時的にそれが叶ったと思われることでも、あとから天地自然、宇宙の調和のエネルギーによって元に戻されてしまうのです。 それは人間が砂漠をオアシスに変えようとすることで植林をすると、別のオアシスが砂漠になるという現実を見ればわかります。  

東日本大震災だけでなく、このところ世界で起こっているこれまでに無いような記録的な暴風雨、竜巻、山火事、洪水などのニュースを見ても、自然は急速な勢いで人間の生活を脅かし始めていることがわかります。

人間の力は小さく、そして自然の陰陽調和の力、エネルギーは膨大です。 その中で宇宙との調和、共生を忘れた人間だけの視点から見た一方的な開発は、もうすでに限界に来ているのです。 

日本でもこれまでの人間の視点に立った思想、哲学を越えた、宇宙の中の人間という大きな考え方が求められ始めてきました。 なぜなら 今回の大震災とその後の原子力発電所の事故は、そういった大きな視点で物事を見なければ、何の解答も導き出されないからなのです。 
 
宇宙と共生する「道」TAOの哲学を伝えてゆく
そしてその宇宙の視点に立った大きな哲学こそ、紀元前の中国で完成された、世界に類を見ない「道」TAOの哲学であり、「老子」なのです。 今こそ私たち人類は「道」TAOに立ち戻らなければなりません。 そうでなければ、人間は開発し、建設し、そして天災で壊されるという悲劇が繰り返されてゆく事でしょう。

人類の明るい未来のために、幸せで豊かな将来のために、今「道」が必要とされているのです。

そしてその「道」に添った生き方とは、人間同士の共生だけでなく、地上の動植物すべて、またそれを越えて天地自然、宇宙の中での共生に立った考え方、生き方をするということです。 身近な人と人、また国境を越えた人と人との共生、その先には、もっと大きな宇宙の気の中に生かされるという考え方、宇宙の気との共生が必要とされてきます。 

現代の世界情勢は決して共に生きてゆこうという共生の方向へ進んでいるとはいえませんが、人間の力を遥かに超えた天地自然の脅威、これまでの楽しい日々の生活を一挙に破壊してしまう自然の力の前に無力さを痛感している私たち人間は、今、学ぶチャンスを与えられているといえます。

そして、学ばなければならない時を迎えているのです。 この時を逃したら、おそらく人類が破滅へ向かって進む速度は加速度的に速くなり、誰にも止めることはできないでしょう。 

そしてそれを救う宇宙の大法則を説いた哲学「老子」がすでに古代に完成されていたことは、人類の幸せであります。 今こそ「老子」を学び「道」TAOを学び、「道」に生きることを広く人類に伝えてゆかなければなりません。


中国古代の叡智に学ぶ


老子の説く宇宙との共生を体観する生き方
無から生じた人間は、時が過ぎればまた無、つまり靜に戻る、これは「老子道徳経」第九章にも書かれています。 
「持而盈之 不如其已、揣而鋭之 不可長保 金玉満堂 莫之能守 富貴而驕 
自遺其咎 功遂身退 天之道也」

この章について早島天來は次ぎのように語っています。
「これは、人間の驕りへのいましめであります。 驕りとは、換言すれば欲望のかたまり、道家でいう我執である。この人間の欲望というのは、はてしなくエスカレートして、限りがない。他人が羨むほどの地位、権力、財力を持ちながら、これで満足ということがないのです。 そしてそれが、人間を破滅に導き、宇宙の調和を乱すのです。 人間の欲望も、道の調和、宇宙の調和の中になければならないのです。」

人間が生きてもたかだか100年、その僅かな人生という時間に、人間は何を成すべきか、もう一度、心を静かにして考える時を持つべきなのです。 そして自分達の子供の時代に何を残すのか、それは決して欲望の追求で壊された地球環境と荒廃した人心であってはならないのです。

そして今人類が学ぶべきこと、その導きとなるのが、中国古代に完成された無為自然、「道」の哲学であり、医学であります。 道を学び、気の修練を重ね、人体が小宇宙であることを知り、宇宙との共生を体観する生き方なのです。 

中国の古代医学に書かれた人体の小宇宙
中国の医学書の基本とされている黄帝内経の上古天真論にも説かれているように
「上古之人 其知道者 法於陰陽 和於術数 食飲有節 起居有常 不妄作労。
夫上古聖人之教下也 皆謂之虚邪賊風 避之有時 恬憺虚無 真気従之 精神内守 病安従来  是以志閑而少欲 心安而不懼 形労而不倦 気従以順 各従其欲 皆得所願 故美其食 任其服 楽其俗 高下不相慕 其民故曰朴 是以嗜欲不能労其目 淫邪不能惑其心 愚智賢不肖不懼於物 故合於道 所以能年皆度百歳 而動作不衰者 以其徳全不危也」 

古代の人々は天真の気を身体に採り入れて「道」に添って邪淫にまどわされず生活したから皆長寿で徳もあったと述べています。

また、「老子」の二十五章には、「人法地、地法天、天法道、道法自然」と明らかにされています。 人もまた自然の法則にそって生かされてゆくのが道である、ということですが、老子道徳経には、第八十一章までの中に現代の人間が、もう一度襟を正して学ばなければならない叡智がこめられており、黄帝内経をはじめとする中国の古代医学には人間の身体も宇宙の一部と見る先見の明がちりばめられているのです。

残された古代の叡智を学び未来に伝えゆく
すでに紀元前にこれだけの精神的、自然科学的な完成度の高い哲学に至っていた人間は、それを生かすことなく忘れているといえます。 その叡智を世界で学び直す時が来ているのです。

そして「荘子」の斎物論には「古之人其知有所至矣」古の人、その知、至ところあり。 つまり太古の人こそ、最高の知に至っていたのではないか。 ということが書かれています。

なぜなら、人間の知能による物事の区別がなく、それによる価値概念が発生していなかったため、無為自然の「道」の調和を壊すことがなかったのです。 現代の人類に課せられた課題は、すでに区別、分別を持ち、価値判断を植え付けられた現代人が、もういちど、それらを横において、「道」の調和に戻る勇気を持ち、決断をすることですが、はたしてそれができるのでしょうか?

これは誰にもわかりません。 しかし、これを傍観していてはいけないのだと思います。 この時代に生まれ、生きている私たち、そして「道」に出会ったタオイストは、この人類の危機に、「道」の思想、哲学を発信し、積極的に伝え、多くの人に今人類が向き合っている危機的なこの現実を伝える時に来ているのだと思います。

日本では明治維新までは、そして特に江戸時代は、中国の哲学、医学の研究については非常に進んでおりました。

中国が清の時代にはいり、それまでの漢民族のすばらしい文化を推進しなくなった時代に、日本は逆に江戸時代という鎖国の中にあって、大変安定した文化社会を形成し、その時期に中国の卓越した文化、哲学、医学の研究が進み、日本の哲学、医学として吸収したのです。 それらは、明治維新によって、突然寸断されてしまいました。

それは今から考えると取り返しのできないことですが、当時の研究書物が多く保存されていることは、幸せなことです。 これらの研究、分析を通して、未来への遺産を残してゆかなければなりません。


日本道観の活動


現在、日本道観では日本道観初代道長、早島天來が収集、研究しておりました江戸時代を中心とした漢籍を、より充実させるべく集め、さらに分析、研究し、日本だけでなく中国の研究者(世界医学気功学会副主席  林中鵬教授を中心とした研究チーム、首都師範大学の李均洋教授との共同研究)との共同研究により、現代にその叡智を甦らせようと、研究結果の日中両国での出版準備も進んでおります。

日本全国で「道」TAOの修練の場を作ることだけでなく、現代の人に解りやすい「老子」(早島天來著、「老子道徳経の読み方」)を出版し、また「現代の人に理解される、「わかりやすいタオイズム「道」」にむけてインターネットでの情報発信も続けております 

「老子道徳経の読み方」早島天來著(日本道観始祖)に書かれている言葉をそのままご紹介しましょう。 早島天來の老子理解は以下のような前文に大変わかりやすくまとめられています。

「この老子の思想の中核を為すものが、「無為自然」の思想である。 これは、「宇宙の現象には人間の生死も含めて、必然の法則が貫徹していて、小さな人為や私意は入り込む余地はないのだ。」という考えが基本となっている。 つまり、人間などというものは、宇宙から見ればゴミのような小さな存在であり、人生は人の力ではどうにもならない自然の1コマに過ぎない。
 しかし、人間はそういうこともわからずに、さまざまな我執に振り回されてあくせくしている。 人は生まれる前は“無”、そして死んでしまえば“無”に帰るわけで、自分のものなど何もない。 これに気づき、くだらない見栄や欲を捨てれば、人生はもっともっと楽しくなる。 これこそが人間として最高の生き方であるという考え方だ。」

ここにはっきりと示されているように、紀元前の人類の叡智、最高の形而上学である「老子道徳経」に語られた真理「道」TAO、宇宙と共生する人類のこれからの生き方「道」TAO、これこそが、現代社会が直面した未曾有の災害である東日本大震災を越えて帰路に立つ日本にとって、そして人類にとって最も必要とされる、力強い未来への指針であると確信しております。 

今こそ私たち人類の未来を後世に豊かな幸せな世界として引き次いでゆくために、人間だけの小さな視点を脱却して、宇宙の中に生かされる人間という自覚に立ち、強い勇気と誇りを持って、天地自然、「道」TAOに添い、人と人、国と国を越えた、すべての生命、そしてすべての存在との共生を目指す時が来ているのです。


高齢化社会にも光明が


現代日本は急速な高齢化社会となっています。 2008年に総人口に占める65歳以上の高齢者の人口が22.1%を越え、そのうち75歳以上の後期高齢者は10%を越えています。
すでに5人に一人が高齢者となり、このままの流れでゆくと2055年には国民の40%以上が高齢者となり5人に2人が高齢者となることになります。 そして実は日本だけでなく、中国も、そして世界の先進諸国もが向き合っている大きな問題なのです。

道家、道教には、「道」TAOの思想とともに、すばらしい気の修練法がのこされてきました。気の修練を重ねることで、「精、気、神」が調和し、病気は無くなり、人間性が完成されてきます。 この事実は、この高齢化社会にも大きな光明であり解決策となります。 老人が年をとっても元気で若者と力をあわせて社会に貢献する時代。 これが、これから必要とされる方向性です。

宇宙との共生、これを常に念頭におき、日々の生活をこれからまた何が起こるかわからない、天地自然の乱れも、有りのままに受け止めて、勇気を持って前進してゆく時が来ています。

そしてこうして修行を重ねられた世界の修行者の皆様、また研究を深められておられる世界の研究者の皆様に学び、お力をお借りして、よりよい修行、研究の道を開き、世界に「道」を伝えて参りたいと思います。 

2011年8月末

●CCTVサイトにて日本道観 早島妙聴道長が紹介される

●早島妙聴道長の論文「道の共生と人類の未来への発展」

●早島妙聴道長の国際道教フォーラムにおける論文発表の様子

●東西論道—西と東の代表によるディスカッション 国際道教フォーラム

●日本道観と宗教 思想 哲学 国際道教フォーラム 2011年10月23日

●日本道観と宗教 思想 哲学 国際道教フォーラムに日本道観早島妙聴道長が出席


日本道観 早島妙聴道長から道の哲学を学ぶ

中国湖南省で行われた国際道教フォーラムにて、日本道観 早島妙聴道長が発表された論文「道の共生と人類の未来への発展」は、 中国各地で大きな反響をよび、中国の各メディアで取り上げられています。
その日本道観 早島妙聴道長から、直々に道の哲学について、また人生への生かし方について わかりやすく 楽しく学べる機会が設けられています。
●日本道観 3つの気のトレーニング「洗心術とは」

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